仕事帰りにスーパーに寄って買い物をした時のことだ。
18時代のスーパーは仕事帰りの人々と家族連れでごった返す。
こういう時は早めに行動した方がいいのだ。
今夜は焼き茄子で一杯やろう。
俺は茄子とビールをカゴに入れ足早にレジに向かった。
レジに並んでいると、前の方で子供が暴れているのが目に入った。
小学生くらいの男の子だったが、カートの中に入ってジャンプしたり、商品を投げたり、周りの人にぶつかったりしていた。
母親はというと、スマホを見ながら全く注意しないで放置していた。
子供の暴れっぷりはエスカレートしていき、とうとうカートから飛び降りてレジのカウンターに乗り上げた。
すると、その瞬間、カウンターの上に置かれていたカゴが転げ落ちて中身が散乱し、ワインボトルが割れてしまった。
ガラス片とワインが床に散らばり、子供はカウンターの上で呆然と見下ろしていた。
周りの人は驚いて声を上げたが、母親は慌てて子供を引き下ろした後、レジの店員に向かって怒鳴り始めた。
「なんでこんな危ないものを置いてるんだ!子供が怪我したらどうするんだ!賠償しろ!」
店員は困惑しながらも謝罪しようとしたが、母親は聞く耳を持たず怒鳴り続けた。
子供も泣きわめきながら「痛いよー!!」と叫んだ。
俺は呆れて見ていたが、その時、前の方から声が聞こえた。
「すみません、私が買おうとしていたワインです」
そこには20代ぐらいの若い女性が立っていた。3歳ぐらいの女の子がサっと後ろに隠れた。
優しそうな雰囲気をしていたがはっきりとした口調だった。
カゴをカウンターに置こうとした瞬間に子供が乗り上げたらしい。
彼女は母親に向かって言った。
「このワインは私のものです。あなたのお子さんがカウンターに乗ったせいで割れてしまいました。あなたが弁償するべきです」
母親は女性を見て驚いたが、すぐに態度を変えて言った。
「あんたのせいだ!あんたがカゴを置くから子供が乗っちゃったんだ!あんたが弁償しろ!」
女性は呆れ顔で言った。
「私は何も悪くありません。レジのカウンターは商品を置く場所です。あなたのお子さんが乗る場所ではありません。それに、あなたは子供を放置してスマホばかり見てましたよね?ちゃんと注意して下さい」
母親は顔を真っ赤にして言った。
「あんただって子供がいるんだからわかるでしょう!女同士は助け合うべきよ!」
女性は苦笑しながら言った。
「私は子供を放置したり暴れさせたりしません。それに、私はあなたと違って独身です」
母親は驚愕した顔をした。
「え?独身?じゃあこの子供は?」
女性が目を向けた方向を見ると、そこには40代ぐらいの男性が立っており、彼のそばに走り寄った女の子を抱き寄せた。彼は笑顔で言った。
「彼女は僕の娘です。妹の面倒をいつも見てくれています。今日は彼女の誕生日で一緒に買い物に来ました」
彼女も笑顔で言った。
「そうです。私は彼の娘で、今日で20歳になりました。今夜は父親と一緒にワインを飲みます」
母親は呆然とした顔で二人を見つめていた。
俺も驚いて二人を見ると、確かに似ている気がした。父親も娘も美形だった。
店員も困惑しながら言った。
「すみません、ではこの割れたワインボトルの弁償はどうしますか?」
父親も娘も同時に言った。
「当然この方(母親)ですよね。もちろんカゴの中身も全部お願いします」
母親は悲鳴を上げそうな顔をした。
20歳になった彼女に乾杯。
今日のビールはいつもよりひどく旨い気がする。
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